3Dプリンターの材料としてのABS樹脂
ABS樹脂は自動車、電化製品でよく使用される材料ですが、3Dプリンターの世界ではFDM(Fused Deposition Modeling)と呼ばれる造形方式で使用される材料として有名です。FDM方式は米国のStratasys社により開発された製法で、フィラメントと言われる糸状の熱可塑性樹脂を造形ヘッド内ヒータで溶かし積層していく造形方式です。1995年Stratasys社からABS樹脂フィラメントがリリースされ、パーツをABS樹脂で直接造形可能になり、形状確認やプレゼンテーションだけでなく、機能確認の用途でも3Dプリンターの利用が可能となりました。
ABS樹脂の特徴
ABS樹脂はアクリロニトリル(AN)、ブタジエンゴム(BD)、スチレン(ST)を原料としたスチレン系熱可塑性プラスチックで、それぞれの頭文字をとって名づけられています。AN、BD、STの成分比を変えることで多くの種類が製造可能でAN成分を多くすれば耐薬品性・強度・弾性率が高くなり、BD成分を多くすれば衝撃強度が向上し、ST成分を多くすれば成形性が良くなります。
ABS樹脂のBD成分は衝撃強度を向上させる他に、次のような特徴をABS樹脂に与えています。ABS樹脂にめっきを施す技術は確立されており、金属の代替品としてもよく使用されていますが、クロム酸エッチング処理によってABS樹脂表面のBD成分を酸化・溶解し、樹脂表面に微細孔を形成させアンカー効果により高い密着性が得られるメリットがあります。一方でBD成分は二重結合を有するため、光、熱、オゾンにより酸化劣化を起こすことがあります。
そのため屋外での使用や、長期で熱に晒される雰囲気での使用では、塗装などの表面処理を施すか、BD成分の代わりにアクリルゴムを原料としてASA樹脂とすることでABS樹脂並の耐衝撃性を確保しつつ耐候性を高める方法が推奨されます。ASA樹脂は一部のFDMプリンターで造形材料として使用可能です。
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