位置決めや簡易サーボ用途で多く使われているバイポーラステッピングモータは、配線がシンプルで高トルクを得やすく、産業機器や3Dプリンタ、小型搬送装置などで非常にポピュラーな存在です。
しかし、いざ選定しようとすると「トルクはどれぐらい?」「ステップ角は細かいほうが良い?」「定格電流ってどう見るの?」など、迷うポイントも多くあります。
この記事では、
バイポーラステッピングモータを選ぶ際に押さえておきたいトルク・ステップ角・電流の3つのポイントを中心に、分かりやすく整理してご紹介します。
1.まず押さえたい:バイポーラステッピングモータの特徴
バイポーラステッピングモータは、1相あたり2本のリード線(合計4本)を持つタイプのステッピングモータで、ドライバ側で電流の向きを切り替えて駆動します。
主な特徴
同サイズのユニポーラ型と比べて、高トルクになりやすい
配線はシンプル(4線)だが、必ず専用のバイポーラドライバが必要
マイクロステップ駆動との相性がよく、滑らかな回転が得やすい
この「高トルク+高分解能+比較的シンプル」というバランスの良さが、バイポーラステッピングモータが幅広く選ばれる理由です。
2.トルクのポイント:必要トルク+安全率で選ぶ
2-1.「起動トルク」と「定常トルク」を分けて考える
モータ選定で最も重要なのがトルクです。特にステッピングモータは、トルク不足 → 脱調 → 位置ずれ というトラブルに直結します。
起動トルク:
動き始める瞬間に必要なトルク
静止摩擦や負荷の慣性モーメントを乗り越える力
定常トルク:
一定速度で動き続けるために必要なトルク
摩擦や搬送抵抗を打ち消せれば良い
特に、加速・減速がきつい動作や、急停止・逆転の多い動作では、起動トルク側に余裕を持たせておくことが重要です。
2-2.安全率(余裕)をしっかり確保する
カタログ値ギリギリのトルクで選ぶのは危険です。一般的には、
必要トルク × 1.5〜2倍程度の安全率
を見込んだトルクを出せるモータを選ぶと安心です。
例(ごく簡略化)
計算上必要なトルク:0.3 N·m
安全率 2倍 → 0.6 N·m 以上の定格トルクを持つモータを候補に
また、ステッピングモータのトルクは回転数が上がるほど落ちていくため、
「欲しい回転数のときにどれだけトルクが出るか(トルク曲線)」を必ず確認しましょう。
3.ステップ角のポイント:分解能と速度・トルクのバランス
3-1.代表的なステップ角
バイポーラステッピングモータでは、次のようなステップ角がよく使われます。
1.8°/ステップ(200ステップ/回転) … 最も一般的
0.9°/ステップ(400ステップ/回転) … 高分解能タイプ
それ以外の特殊分解能(用途・メーカーによる)
3-2.ステップ角が小さいとどうなる?
メリット
1ステップあたりの角度が小さく、位置決め分解能が上がる
微細な送りや低速回転が必要な用途(精密送りステージなど)に有利
デメリット
同じ回転速度を出すために、必要なパルス周波数が高くなる
モータのインダクタンスやドライバの性能がネックとなり、高速域でトルクが低下しやすい
価格がやや高くなる傾向もある
一般的な産業用途では、1.8°タイプ+マイクロステップ駆動で十分な分解能を得るケースが多く、
「それでも足りない」場面で 0.9°タイプが選ばれることが多いです。
3-3.マイクロステップ駆動との組み合わせで考える
最近では、ドライバ側で**マイクロステップ駆動(1/4、1/8、1/16…)**を行うことが一般的です。
1.8° × 1/16マイクロステップ → 3200ステップ/回転
0.9° × 1/16マイクロステップ → 6400ステップ/回転
このように、「モータのステップ角」と「マイクロステップ分解能」の組み合わせで、
実質的な分解能は相当細かくできるため、必ずしもステップ角の小さいモータにこだわる必要はありません。
4.電流(定格電流)のポイント:トルクと発熱の兼ね合い
4-1.定格電流とは?
バイポーラステッピングモータのカタログには、必ず**相電流(定格電流)**が記載されています。
これは「その電流を流したときに定格トルクを出します」という目安です。
例:定格電流 2.0 A/相、保持トルク 0.8 N·m
ドライバ側で 2.0 A を流す設定にすれば、カタログ通りのトルクが得られる(条件による)
4-2.電流を上げればトルクは増えるが、発熱も増える
基本的には、流す電流を増やすほどトルクは増えますが、同時にモータは発熱します。
定格以上の電流を長時間流す → コイル温度上昇 → 絶縁寿命低下・破損リスク
高温になると磁石や潤滑剤にも悪影響
そのため、
基本は定格電流以内、
必要に応じて少し低めに設定して発熱を抑える運用が一般的です。
4-3.停止中の電流(ホールディング電流)に注意
ステッピングモータは停止中も通電してトルクを保持するため、
停止中の電流設定が高すぎると、かなり熱くなります。
ドライバに「保持電流を自動的に下げる機能」がある場合は積極的に利用する
例:動作中100% → 停止中50〜70% に低減
これにより、発熱を抑えつつ、必要な保持トルクを確保できます。
5.電圧とドライバとの関係もセットで見る
バイポーラステッピングモータのトルク特性は、電流だけでなく駆動電圧にも影響されます。
高めの電圧 → 高速域でのトルク維持に有利(電流の立ち上がりが速い)
ただし、ドライバの定格電圧を超えないことが絶対条件
選定の際は、
モータの定格電流
対応するドライバの最大電流・最大電圧
必要な回転数に対して十分なトルクが出るか(トルク-回転数特性)
をセットで確認することが重要です。
6.まとめ:バイポーラステッピングモータ選定のチェックポイント
最後に、バイポーラステッピングモータを選ぶ際のポイントを整理します。
① トルク
必要トルクを計算(起動・定常)し、1.5〜2倍程度の安全率を持たせる
使用回転数でのトルク特性(トルク曲線)を必ず確認
② ステップ角
一般用途は 1.8°/ステップ が標準
さらに高分解能が必要なら 0.9°タイプ+マイクロステップ駆動を検討
ステップ角だけでなく、ドライバのマイクロステップ設定との組み合わせで考える
③ 電流
カタログの定格電流を基本としつつ、発熱が大きい場合は少し落とす
停止中は保持電流を下げて温度を抑える
モータ定格電流とドライバの電流設定範囲の整合性を確認
この3点(トルク・ステップ角・電流)を軸に、実際の負荷条件・回転数・発熱・設置スペースなどを合わせて検討していけば、用途に合ったバイポーラステッピングモータの最適選定にぐっと近づきます。